学びかたを学ぶ

アメリカの大学院で成功する方法―留学準備から就職まで (中公新書)

アメリカの大学院で成功する方法―留学準備から就職まで (中公新書)

 先輩や友達が絶賛していたので、今頃になって読んだ。なんとなく「アメリカの大学院」という響きにロースクールビジネススクールでのサクセスストーリーのイメージがこびりついて、敬遠していた向きがある。
 だが、筆者の専攻はアメリカ文化研究で、日本で院生をするにあたってもかなり参考になる内容だった。たぶん、修士に入る前に読むのがベスト。

  • 基礎的な勉強の技術(これが身についていない人は大学院留学を考え直したほうが良い)
    • そこに描かれている史実を知識として学ぶのはあくまで第一歩でしかない。研究者として読むには、その史実についての著者の議論を正確に把握し、使われている分析手法の長所短所を見極め、先行研究および現在学界で行なわれている議論の文脈において、その研究がどういう意義をもつか評することが求められる[p.8]。
  • 進学先の選択
    • 著名な研究者が必ずしもいい教育者ではなく、有名教授がたくさんいる大学が必ずしも大学院生にとって幸せな環境ではない(中略)。自分の興味のある研究をしている教授を見つけたら、その教授の教師としての評判を調べてみよう(中略)。さらに、教授は動く(ことがある)ということも念頭に置いておくべき[p.25]。
  • リーディングのコツ
    • 書評を探して先に読む
    • まず序章をじっくり読んだら、中身は飛ばして結論を先に読むのがよい[p.67]。
    • 学部生向けの教科書や事典を活用
  • 「ディスカッションの貢献度」への恐怖
    • 「自分が馬鹿でみんなが賢い」というのはその通りである場合もあるが「多弁なものが優秀とは限らない」こともある
  • ペーパー書き:英語の論文の体裁=数学の証明問題の解答と同じ組み立て
    • 序文 トピックの提起、これから証明する議論を明快かつ簡潔に述べる
    • 本文 その議論を証明すべく、資料やデータを分析
    • 結論 もう一度その議論を、多少言葉を変えて述べる
  • 博論執筆のための資格試験:専門家としての知識の体系化
    • 試験勉強:分野ごとに書籍を選びリスト化(四つの分野を受けるのに400冊の本を読む)
    • 大事なのはとにかく読み進めること、読み進めたら分類ごと/分野ごとに何か書いてみること
  • 助成金応募のメリット
    • 学外の人を相手に自分の研究の意義を明快な文章で説明するのは、自分の考えを整理するのにも勉強になる
    • 助成金の審査にあたる、各分野の著名な研究者に、自分の研究の存在を知ってもらうだけでも、貴重なネットワーキングになる

 私が入ったのは日本の大学院だったけれど、上記の「本の読み方」すらできないのにいきなり他分野の、同系統の人がほとんどいない研究室に紛れ込んでしまい、課題の英語を全訳したところで前提知識がゼロで、何を言っているのかわからなかったり、ディスカッションについていけず悩んだり、そういったことばかりの3年間だった。私の場合、それに加えて「基礎文献の貯蓄がない」という事実が強迫観念のように常につきまとい、難解な原典を前に寝てしまうことが非常に多かった。
 読みきれないときは序文と結論だけ読んでゼミに出る、という技を先生方から聞いたのは、もうM2の春で、単位をほぼ取り終えていた頃だと思う。わからなかったら新書から読め、というアドバイスの意味もM3くらいで理解できた。
 
 現状を呼び起こした反省点は山のようにある。ただ、自暴自棄に向かっていった自分のなかに、「たとえきちんと準備をしてもどうせできない」という劣等意識がかなりあることは確かで、それを改める気なら根本から向き合うべきだと、これを読んで思った。