[文献]あおられる不安

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)

 
 在外で調査中の先輩がこの新書に付章を寄稿しているということを知り、読了。フリーター・ニート問題の一側面で、かっちりとした日本社会になじめずタイに出て行き、資金が尽きるまでゆるく暮らす人たちのインタヴューデータ中心の読み物。筆者はそれを「外こもり」と呼ぶらしい。「海外で引きこもり的生活」の略、といったところだろうか。


 バブル以前〜現在の日本における学歴や職歴、コミュニケーション能力重視の社会になじめずに海外に出た若者たちが、何に悩み何に疲れたのかというあたりで、問題を考察する側であるはずの自分が、むしろ自分の問題としても突き刺さってくるので痛くて仕方なかったが(25を過ぎても正社員として働いたことがない&保障のない生活&多少の留学経験や海外経験は会社では何の意味ももたない&夢ばかり大きくて実行に移せないetc.……)、「日本の格差社会における敗者」が「南北の経済格差」を利用して生き延びている、という単純な構図で終わっていないのが、巷に溢れる格差新書と一線を画す点なのだろうか、と思った(筆者はアジア放浪方面で著名なライターであるそうだ)。タイにおける現地の考え方をインフォーマントたちがどのように消化しているのかが、「都市」に着目しながら描き出されている気がした。


 研究室でヨーロッパ出身の人と話していたとき、彼女は一番好きな日本語が「めんどくさい」だ、と言っていた。母国語にも英語にもないその表現がとても気に入っているらしい(それは日常会話でも頻繁に出るのでよくわかる)。隣にいた日本人の先輩はタイをフィールドとしていて、タイ人は「めんどくさい」を非常に多用することを教えてくれた。


 小野さんの付章は、(「めんどくさい」こそ出ないものの)タイのそうした空気感をつかみながらも、「日本ではうまくやれなかったことをタイで成功させた」人たちの話だった。移住を通して見えてくるものは日本社会の何なのか、と問う。


 タイトルの「降りる」に、批判的なものを感じる人もいるかもしれない。しかし私はこれは「ジェットコースターから降りる」の意味だろう、と直感的に思った(帯のマンガのせいもある)。日本の若者が歩まされる基本のルート(レール)は、合わない者にとってはとことん苦痛で、それでも無理やり合わせている人がたくさんいる。無事に着地できる保証がどこにもないことに目をつぶって、みんな振り落とされないようにしがみついている。乗り切れずに悩み苦しんでいる人に、「貯金があるなら、海外の南方にでもしばらく行ってきたら?」と言おうとして言うのをやめたことが何度もあるのも事実なのだ(自分の発言に責任を持てない上、これ以上類友が増えたらきっと自分自身が落ち込む、という理由から)。