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研究者の手になる「物語」を読む

サウンドスケープ

サワサワ

サワサワ

 中川先生による別視点の「音の風景」。
 ばななさん好きだったので、バリの小説というとどうしても『マリカの永い夜』を即座に思い描いてしまうけれど(私は単行本バージョンのほうが好きです。たとえ無理があろうとも)。
 前半が写真、後半が小説の二部構成。小説は、日本人ジャーナリストがバリに赴いて、バリ人の彫刻師やフォトグラファーたちとともに、聴覚を通してあらわれる霊的存在との出会いを機にインドネシア定住を決心する物語。
 「音」を切り口にバリを紹介する、という主人公の意図が冒頭に出てきて、おそらく先生がこれまでフィールドで聴いてきたであろう、さまざまなバリの音風景が描かれている。
文体はどちらかというと民族誌っぽくて、初めて読んだとき(出版直後)は結構時間をかけて読んだ気がする。
テーマはなまのバリの「音」であるのだが、物語の最後を飾るのは霊から贈られた極上のガムラン。 
 ちなみに一度お会いしたとき、(研究書だけでなく)これも是非読んでくださいといわれ、持っていますといったら、「ほんとうのことしか書いていない」と先生ご本人がおっしゃっていました。

マリカの永い夜;バリ夢日記

マリカの永い夜;バリ夢日記

 以前観光でバリに行ったとき、文庫版を持って行って読んだ。ばななさんの作品ではこれと『SLY』と『哀しい予感』が好きです。

人類学

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

闇の守り人 (偕成社ワンダーランド)

闇の守り人 (偕成社ワンダーランド)

 大学入りたてのころ、児童書再読の一環で手にとって惹きこまれたシリーズ。
 最初のころの著者紹介には「文化人類学的視点を生かしたファンタジーを書く」と書かれていたとおり、ご本人はアボリジニ研究者で、作品には人類学がこれまで取り組んできた「課題」が、舞台となる社会を通して提示され、登場人物がその中で悩み、当座の問題が解決されることで、そのひとつのあり方(努力目標?)が語られる。
 支配階級(王宮)、権力にまつわる陰謀や策略に翻弄される庶民や被差別民それぞれの暮らしが、超常的存在によって脅かされ、それを異人である主人公たち(流れ者、呪術師など)が一つずつ解決していく物語。大きな流れとしては帝国主義の波に対峙する小国群という設定になっている。
 第一作で印象的なのは先住民と権力者の関係で、先住民の神話が支配階級によって作り替えられ、伝統的な祭りの目的が変容しても、土着の知識がそのなかに織り込まれたまま儀礼が続けられていることが謎解きの鍵になっている。作中の人物は(主人公を除いて)みな「世界の謎を解く」ことに熱心で、学者の層が厚い。
 第二作は翻弄された過去をもつ主人公が、それと向き合いつつ権力者の陰謀をいかに潰すかという話で、氏族社会における親族関係や伝統・儀礼の継承システムなどが面白い。
 続編もそれぞれに重いテーマを説教じみずに扱っており、現在は外伝含めて9冊出ていて、後1冊で完結だそうです。春からはNHK-BSでアニメ化、ちらっと見た映像は背景がとても美しいもので、こっそり楽しみ。
 ちなみに昔からファンタジー児童書系統は好きで、図書館で借りまくっていた(という割にシリーズものはあまり読んでいない。ついでにハリー・ポッターシリーズはどうしても「どこかで見た設定」「どこかで見た展開」に思えて、途中で読むのをやめてしまった)。本格的に日本を含めたアジア「的」な場所を舞台にしたものは当時はほとんどなくて、今の小学生は上橋さんや荻原規子さんの本をリアルタイムで読めるのがとてもうらやましい。
 こちらは上橋さんのフィールドの話。