飛ぶ音響技術

 数週間後にフライトを控えて何を思ったか、突然航空事故について調べ始めた。そしてWikipediaの記事を、半泣きになりながら延々と時系列に遡って読み進めてしまったのは、技術的な部分はもとより、人的資源の管理やリスク対策についても完全に専門外である自分が「コックピットボイスレコーダー」なるものの存在につかまってしまったせいではないか、と思い当たった。その箱は、事故原因の究明のために、物音や会話を録音する性能を持ち、壊れにくく/発見されやすく作られているという。


 衝撃や火災によって全ての証拠が駄目になってしまったとき、残るのは「音声」だけであり、残された人はそれを探し出し、会話を再構築し、音を基にして事故原因を探る。複数機が絡む事故の場合は、双方の録音を交え検討して初めて「事実に最も近い説明」が提示されることも多いらしい。


 知識としては知っていたが、再現された会話を読むといろいろなものがこみ上げてくるし、それを可能にした技術と、事故の起きた瞬間/情報が途切れる「一瞬前」の「音の環境」を読み取ることの意味をどうしても考えてしまう。それはとてつもなく悲惨で凄惨な音響の記録なのだが、「音響」そして「声」(映像はないのかと思ったが、まだないのだろうか?どこにレンズを向けるかで違ってくるから意味がないのか、技術的に無理なのか)によって作られる、とても意味のある重要な記録にほかならない。


 その記録は、起こったことを取り返すには何の役にも立たないが、原因の究明と今後の対策のために有効に使われるという。つまり音の風景とは、決して牧歌的でのどかなものにだけ適用される概念ではない、ということを改めて確認した。


 事故の記録を葬らないため、忘れないため、繰り返さないための抑止力としても、こうした記録が一般レベルにまで普及していくのはポジティブな効果を持つ。しかしその他に、聴覚的なものを質的に研究している立場から、音の専門家としてできることが何かあるのではないだろうか?どこかにそういう研究者がいるのではないだろうか、と思った(が、探し当てられなかった)。


 これもネットの発達で、mp3にして上げてあるサイトも多いらしい。聴くのはもう少し勉強してからにしようと思う。そして、採録書も出版されている。読めるかわからないけれどメモ。

The Black Box: All-New Cockpit Voice Recorder Accounts Of In-flight Accidents

The Black Box: All-New Cockpit Voice Recorder Accounts Of In-flight Accidents

【追記】
 先日手元に届いた。だいぶ薄く、ひたすらレコーダーに残された会話が記載されている。日本のものも英訳されていた。この発想がどこまで使えるかはわからないが、時々眼を向けつつ、博論が終わったら考えてみたいと思う。