読書会@大阪市大
The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction
- 作者: Jonathan Sterne
- 出版社/メーカー: Duke Univ Pr
- 発売日: 2003/02/01
- メディア: ペーパーバック
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合意形成を要するポイント
sound reproduction
音の「複製」と訳されるが、「再生産」として考えると意味合いが違ってくるということ。複製=copyは再生産ではない。copyされた音を「再生」することまで含めてreproductionと考えておく必要《追記:コメント欄参照》。
hearing, listening, auditory perception, audition, sense of hearing
用語の意味。hear/listenを「聞くこと」「聴くこと」と分けるのは一般的だが、訳である以上限界もある。「聴覚」「聴取」を含め、どれをあてるのか文脈に応じて訳し分けるしかない。
内容(訳としては対応していません)
近代、音が複製(再生産)される技術を獲得した背景には、「聴き方」(聴取技法)の変容があった。本書は、近代の視覚中心主義が聴覚を排斥してきた、視覚が台頭する前は聴覚の世界だった、という、人口に膾炙した語りにオルタナティブを提供するものであり、事例として医学や電信技術を検討する。
現在、視覚/視覚文化についてはいろいろな分野の大家が着目しており、文化理論では「まなざし」の比喩が市民権を獲得し、「イメージ」への関心も高まっている。翻って、音についてはどうか。「声」を別にすれば、理工学的分野では共通した研究対象となっているsound culture/sound studiesを、社会科学・人文科学の脈絡で共通性を持って議論できる対象とした研究は不在に近い*1。そして、音の研究(studies of sound)は、音文化(sound culture)に対し、トータルな存在論を問うのを避けている。そしてその代わり他の分野や学際的分野で議論を進める*2。きちんと通分野的・基礎理論的レベルで問わないことで、逆に、個別事例を積み重ねていつか全体が見えるだろうという累積主義に安住している。そして、累積されたものは散らばったままにされている。それではいつになっても見えるわけがないだろう。聴衆論、電話、スピーチ、発声映画、サウンドスケープ、聴覚の理論、どれも、相互のかかわりや学問分野全体への有機的な接続を提供はしてくれない。そのため、それぞれが属する領域に、理論的フィードバックを与えることもできずにきた。
マルクスが理想の社会を考えたとき、「五感」という分け方が、われわれがそれらを分離して思考するようになる前から「存在した」わけではなく、われわれが分けて考えることで「作り出した」ものであることを指摘したように、感覚は歴史における人工物(artifact)なのだ。ものの見方の変容が視覚的技術の変化をもたらしたように*3 、音、聴覚、聴取の変化も、社会の変容が生み出したものなのである。
コメント
おおむね同意。特に、個別事例の研究にとどまるばかりで連続性が全然ない、というあたり。要はスターンの研究を参考にしつつ、これからつないでいかなければならないのだが。
視覚研究の開拓した路線をなぞっているだけでは、という批判があったが、「聴覚」でそれがやりにくかった、ということ自体が音や聴覚に関する研究のuniqueだとは思っている。そしてそれを打開するやりかたも異なるだろう。ともあれ、視覚論の流れもフォローしておかないとわからないことが増えていく。
その他
earthear(環境音のレコード)
voxlox(Feldのレーベル)
Wild Soundscapes: Discovering the Voice of the Natural World
- 作者: Bernie Krause
- 出版社/メーカー: Wilderness Pr
- 発売日: 2002/05/01
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どこかで……と思ったらソトコト2004年12月号で対談している。手元にあった。
その後
飲み会にて。「大学院にいくことがいかに不利か」みたいな話をして学部生の進学をとどめる会になっていた。まあ、ここまで来てしまったらあとは頑張るしかない、という話をする。実体験からは、院で外部に出るのはギャンブルだがメリットも大きいと思う。出ない場合自分から外と積極的に交流していかないといけない。どちらにしろ出てしまった場合も、つながりを保つ努力は続けなければいけない(し、毎回毎回新しい場所の水が合うとは限らないのがやっぱりギャンブル)。