[文献]論文

LEE, Tong Soon
1999 Technology and the Production of Islamic Space: The Call to Prayer in Singapore Ethnomusicology,43(1),pp.86-100.

Tong Soon Lee
 筆者Tong Soon Leeは、チャイニーズ系(たぶん)の研究者。ピッツバーグ大学でPh.Dを取得(MBAも持っている?)。シンガポールの路上中国演劇について調査(下記の出版予定モノグラフはこちらの内容)。この論文は1999年のもので、1970年代、「アッザーン」の朗唱に技術が入り込んだことにより、シンガポールにおけるマイノリティ(マレー人)であるムスリム社会にとってどのような影響があったかを論じている。資料は当時の新聞記事がほとんど。「技術」とは、ラウドスピーカーと、ラジオ放送である。
 

要約
  • それまで人間の声のみで朗唱されてきたアッザーンに、ラウドスピーカーが用いられるようになった。
  • 主に非ムスリムなどとの間で、騒音が問題になる。
  • やがて、個人個人でアッザーンを聴けるように、ラジオ放送で流すようになった。
    • ラジオを通して放送することで、モスクには行くことのない女性たちも祈りに加わった。モスクという限られた空間を超えた「共同体」が生まれた。
    • ラジオの音によって、(非ムスリムの空間を侵略せずに)結びつくシンガポールムスリムは「想像の共同体」(アンダーソン)といえ、この場合は、(シェーファーのいう「音分裂症的」な)電気的に複製(Sterne的には再生産?)された音が、ムスリムアイデンティティの形成に寄与している(想像のイスラム共同体)。

シンガポールでは、技術の利用(ラジオを通した朗唱の放送)は、共同体が多面的社会における集合性を維持するために、積極的にメディアテクノロジーを活用している事例を提示しており、ここではそれは、宗教的・文化的アイデンティティの維持に必要なものである。そしてイスラム的文化の生産に欠かせないものである。ムスリムはメディアテクノロジーを「伝統化」しており、それが社会的な意味を定義している[pp.97]。

    • 録音して流す、という形になってから、流されるバージョンには「上手な」朗唱が選ばれるようになった。他の人々もラジオで流れる朗唱を真似るようになっている。