オープンキャンパス

 大学院説明会でスタッフのお仕事をいただき、小雨のなかを研究室へ。入学希望者に音楽系やら特別行政区系の人がいて戦々恐々としつつ、図書室を案内し、シンポジウムを手伝い、懇親会に持ち込む。
 
 そういえば入試のときも思ったのだが、ここの博士課程を志望する人には、どうも在職のまま研究を続けようとする人が多い。厳密に言えば「研究職以外の仕事を辞める気のない人」だ。今回も、修士号を持っていない人もいる状況だった。仕事をしながら、或いは仕事を一時的に休んで修士号を取り、さらに研究を深めたい、という話を結構聞く。
 
 しかし実際に入学している在学生は、ほぼ学生業に専念している。兼業の場合も、職場がそのままフィールドであったり、学業メインで自宅で副業をやっていたりという形になる。それは当然で、そもそも予め社会人向けに組まれていない大学院のプログラムを、在職のままこなすことは不可能に近いのではないかと思う。もちろん、子育てや介護をしながら研究を続けている人もいるので一概にはいえないし、ものすごい能力を持った人も稀にはいる。だが、その場合も少なくとも通える範囲に住むことが最低条件になると思う。もしくは、頑張って通ってくることが。

 海外の社会や、理系などの社会では、博士号を取得した人がそれを生かして社会で働くケースも多い。だが、日本の人文系の大学院で、企業で働くために関係のある領域の博士号を取る人というのはほとんど聞いたことがない。というか、人文系の博士号を持っていても企業では不利になるだけでそもそも採用されないというのが一般的認識で。
 
 正直、学校から出たこともなく、年齢を気にしながらどんどん減るポストを横目にぐだぐだと研究っぽいことを続けていくであろう自分よりも、在職のまま、オンとオフを切り替えて言葉は悪いが「趣味で」博士号を取ろうとしている人のほうが健全に見えないこともない。だがそれでも、現行のプログラムでは、うーん……と思ってしまうのも事実なのだ(安全保障プログラムのようなところはまた別だ)。博士号はパスポートに過ぎない、だから早いうちにとるに越したことはない、という先生のコメントも勿論聞いたのだが、パスポートは保険で取る人もいるわけで。どうなんだろう、と思ってしまう自分がいる。これからどんどん増える博士号は、その意味をどのように変えていくのだろう。



 一年前の今ごろ、登校拒否をようやく脱して行った研究室で、おそるおそるこちらの院を考えていることを相談した。おびえる私に「いいんじゃない?」と言ってくれた先輩たちは、今では目標とすべき存在になった。
 説明会で出会った受験生は、いま同期で一緒に作業をし、なぜか延々と話し込んでしまった在学生の方々には、時々先輩として相談に乗ってもらっている。なんだかんだいって、あのとき、差し迫った課題を放り出してでも大阪まで飛んできてよかったな、と思う。