可聴過去(仮)読書会@市大サテライト

 そんなわけで遅れてしまった。権利意識が強くて義務意識が希薄な自分を反省しつつ。

The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction

The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction

第三回。introductionが終わる。

確認事項と大まかな内容(訳として対応はしていません)

ピエール・シェフェールの"acousmatic"と、マリー・シェーファーの"schizophonia"の概念
  • acousmatic……acousma《要素幻聴》、音そのものから抽象化される心象のようなもの(音源を見ることなく「聴こえる」もの)
  • schizophonia《音分裂症》……電気的に複製された音がその本来の脈絡から切り離されること(バリー・トゥルアクスとともに言及)。それに対して否定的。

 これらの概念が、複製技術について論じる際に土台としている「複製技術」のあり方をSterneは批判する。複製技術以前の世界において、音はface-to-faceで身体性を持ち、五感は身体のうちに統一されていたのだが、技術がそれをばらばらにした、という発想は現在のわれわれが抱く幻想である。複製技術はその時代の歴史的条件の中から生まれたものであり、その時間軸における必然である。そして複製技術それ自体にも身体性を伴った「過程」が存在する。音の歴史はその時代において構築されたものであり、あたかも歴史がその上に構築されるような、定数的な普遍性として語られるべきではない。

transducer《変換器》を用いるのが「複製技術」の特徴である
  • 音の再生産はすべて、変換器を通してなされる。
  • 音を何かに換えて、また何かに戻すこと=再生、という前々回コメント欄*1での議論をここで持ち出してみる(読み返せばtransduceについて言及されているのはこの部分だ)。議論の結果、「再生=replayというイメージが一般に浸透しすぎているため、誤解を防ぐには、reproductionを「複製」でなく「再生産」と訳していくことが啓蒙(この語も問題かもしれないが)だ!」という合意形成に至る(誇張しすぎか?)。
  • 本書で論じていく「音の再生産の歴史」は、年代記的にではなく、分析的に拓かれていくものであろう。この「変換器」は、物理的な原理で動く単純な装置だが、あくまでも文化的な人工物なのである。


あとは各章のかんたんな紹介と、本文で扱いきれなかった事象に対するフォロー。

コメント

「歴史的」とは

 id:yasuhamu氏がときどき仰る「歴史的視点の欠如」というタームに異様なひっかかりを覚えてしまいそればかり持ち出してしまった。ここでいう「歴史的」とは、その時代の物証を地道に集め、検証し、その時代の必然を綿密に解き明かすということを指す、と解釈してよいようなのでそう考えることにする。それが欠如しているというのは、ある事象があたかも時空を越えて一般化された普遍的な現象であるかのように語ること、を指すらしい。「歴史学とは方法論がまったく違う」とか「民俗学は権力者の(大文字の)歴史に対する、一般の人々が生きる生活世界の歴史という挑戦」のような話を最近聞きつつ、「歴史学的」というのはどういうものを指すのだろうと考えていたので身構えていた。専門家の方からすると、歴史的/歴史学的とはどういうことなのだろう。ひとまず危ういと思った箇所は「歴史上の」と訳してみたりして逃げる。

スターンの立場

 ともあれ、彼は普遍的・一般的(シェーファーに限って言えば神話的といってもいいのかもしれない)な「複製技術の誕生/使用」に対して「超歴史的」という批判をし、自らの研究が「歴史性をもつもの」であるとする。その際、localism, cumulativism, neopositivism を、現代文化史を荒廃させたものとして名指している。ここは結構重要ではないかと思うのだが、要はそういった局所的な研究が「歴史上の断片的事象」であるのに対し、本書は「哲学的思索の実験」であるとする。もっとも大きい視角から考えるとき、研究は《対象》ではなく《方法》に貢献するものだ、という発想は、特に、(音楽に含まれない)音を扱う分野において欠けていた点ではないかと思うので先を楽しみにしてみる。

参照されたもの(抜粋)及び話題になったもの

TRUAX

Acoustic Communication

Acoustic Communication

CORBETT

Extended Play: Sounding Off from John Cage to Dr. Funkenstein

Extended Play: Sounding Off from John Cage to Dr. Funkenstein

キットラー

(読みにくい!という共通解説付き)

グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)

グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)

acoustic space

が出てきたが、McLuhanはここでは注になかったように思う。シェーファーの師匠である。

Understanding Media: (Routledge Classics)

Understanding Media: (Routledge Classics)

民族誌における録音の意義

A Spiral Way: How the Phonograph Changed Ethnography

A Spiral Way: How the Phonograph Changed Ethnography

Songcatcher -歌追い人- [DVD]

Songcatcher -歌追い人- [DVD]