概要

パプアニューギニア・マダン市周辺村落を中心に、1997年〜1998年を民族誌的現在とした、グラスルーツの人々によるギターバンド音楽をめぐる音楽人類学の民族誌

  • グラスルーツ:「英語を話し高学歴で都市に住むエリート」の対極に位置する、農村に住みトク・ピジンや在来語のみを操る人々
  • ギターバンド:「ストリングバンド」(独立以前)と「パワーバンド」(現在)がある
序:理論的背景
  • フェルドの民族誌の問題点
    • レヴィ=ストロース流の構造分析に沿わない「分析」:三項対立の図式が「動的」
    • 「カルリの美学に従わないカルリ」、「高貴な野蛮人」を生み出す危険性
    • 比喩という「言語」で音を語ることの問題:修辞学によらずに「グルーヴ」を語るべき
    • 「たとえば、神話テクストの空間を葬儀の場の泣きのような個々人の記憶の空間へと変換させる力を考えてみると、それは感情的なものと社会的なものが接合しているような身体的な場所における作用である。しかし、この身体的な作用はそのうつろいやすい性質のために何かの知識の束とか体系に置き換えて捉えられるようなものではない」(福島 1993)〔pp.17〕。
    • 民俗知識の束から導き出された構造からは説明しきれない出来事の次元にある、当該社会の「相互作用の独特のあり方〔pp.18〕。
  • ブルデューハビトゥスと「構造化する構造」:想像力(ハビトゥス)は行為遂行的
民族誌の大まかなまとめ
  • 「ホワイトマン」:白人、日本人など(かつての植民者のイメージ)/逆に、トクピジンで呼び合う関係は「現代パプアニューギニアの振る舞い」。
  • 「ワントク」:wanetok (One Talk)ひとつの言葉で呼び合う仲間、の意。グラスルーツ的振る舞いをし、これで呼び合うことで「呼びかけ」「応答」の互酬が成立。
  • 「ロコル歌謡」:Local のトクピジン。ギターバンド音楽を指す
  • 「シンシン・トゥンプナ」:かつて儀礼において奏でられていた音。現在はロコル歌謡の資源となりつつも、伝統的文化財として存続を続けている。 →「シンシン・ムシック」へ:ギターバンド音楽を指す。前者が「場の共有=演奏」だったのに対し、「聴く」ことにシフトしている。
  • 肌の知:音を出すすべや身体技法の暗黙知を指す言葉。しかし、ここでは徒弟制や、正統的周辺参加といった学習方法はみられない。村落の人間関係を中心にゆるやかに展開する。
  • ダンス会場:野外のダンスでは、しばしば傷害事件が起こる。人々がどの音楽を好み、どれを嫌うかといったことによって音が喚起する「なにか」があるのではないかと筆者は考えた。「ホワイトマンの歌」が喚起するものを、彼らは忌避する。
  • シンシン・トゥンプナの構築:儀礼の再構成と映像におさめられた「ニューギニア」の表象、そしてそれを批判的にみるまなざしへの批判。
  • ロコル歌謡の表現:ロコル歌謡における使用言語の多様性。在来語・トクピジン・英語。
  • 漕ぎ出すカヌーの悲歌:ある文脈において死者を思わせる歌は「悲歌」として用いられる。しかし、それを在来語から切り離したとき、ニューギニアの人々であっても理解されえないことがある。
  • 断片聴覚とワントク・イデオロギー
    • 彼らの聴取形態において、届くものはなにか
    • 「歌詞」、「音色」、「言語」と「ニューギニアらしさ」